会報19-5 わたしの部屋 アルプス紀行

大塚 伊四郎 [平成19年(2007)12月31日発行会報第19号から]

かつて、ミラノ空港を目指す眼下に展開する山塊に圧倒されました。ハンニバルやカエサルが大軍を率いて越えたアルプスを間近に見たくて 7 月に出かけました。「予定の全山が姿を現わしてくれたのは当社では新記録です。」と引率添乗員まで上機嫌の旅でした。氷河の先端が絶壁から落下して立ち上る白煙と谷間に谺する雷鳴のような炸裂音も旅を盛り上げてくれました。高齢者部隊の高地への順応のために、独・墺の山々を手初めに伊・仏・瑞を巡りました。高地では、おしゃべりや速足が過ぎるとすぐ息切れが始まり、モンブランを展望する富士山より高い台地では軽い眩暈もありました。

九州より狭いスイスの印象は以下の通りです。

①耕地が少なく、急斜面まで牧草地として活用せざるを得ない。放置された荒地や見苦しい看板・幟旗もない美しい国である。

②食糧難に起因する出稼傭兵は 15 世紀頃から本格化したらしい。列強間の戦が同国兵同士の戦でもあった事から「血の輸出」と言われ、その悲劇の残映が今もバチカン宮殿警護に残っており、悲願の永世中立国へと繋がっている。既設核シェルターは全国民収容が可能とのこと。自転車で峠越えをしたり、大人を前に抱えてパラグライダーで目標に着地する大勢の若者に真の国防力を感じた。老若男女が至る処で拇指の運動ばかりしている某国とは基礎体力が違う。

③EU加盟拒否は中立国且つ経済小国としての悩みからであるが、ユーロOKの店も多い。

④周辺国に比べて歴史的遺産に恵まれないが、厳しい自然を観光資源として周年全世界から客を集めている。1871 年に観光用登山鉄道開設が始まり(日本では翌年に新橋~横浜が開設)、アイガー(3,970m)、メンヒ(4,099m)を貫き、ユングフラウ(4,158m)の肩(ヨッホ)駅(3,454m)が 1912年に開通している。鉄道・リフト・道路等のインフラは「ここまでやるか」と驚かされた。

永世中立と観光立国のシステムとインフラの鎧をしっかり纏っている国である。