平成25年(2013)03月24日発行10周年記念誌第5章から
1.地域の特性
麻生区市民健康の森は、新宿から小田急線で約30分、「読売ランド前」駅北側に広がる、 つながった広大な「緑のかたまり:森林地帯」の中央部に位置している。この「緑のかたまり」は、日本女子大学西生田キャンパスの森、多摩特別緑地保全地区、多摩自然遊歩道、多摩美ふれあいの森、多摩美特別緑地保全地区、細山大久保特別緑地保全地区などが一体として構成されており、「川崎市緑の基本計画」(2008年策定)でも、多くの動・植物に恵まれた生態系豊かな「みどり軸」の一つとして、市民の貴重な自然環境資源であると評価されている。
これらの緑地は、それぞれ市民による保全活動団体によって、様々な形で市民に利用され、維持管理されており、市民生活に欠かせない最低限必要な生活環境基盤となっている。
ここでは、麻生区市民健康の森の地域内における植物調査の結果に基づく植物リストとその特性を記す。
2.森の植生
2012年10月現在の調査の結果、380種の植物が確認されている(ちなみに、上記の接続する多摩特別緑地保全地区、細山大久保特別緑地保全地区、多 摩美ふれあいの森を含めた地域の植 物は479種である)。そのうち、草本 は234種、木本が127種、その他タケが2種、シダが17種となっている。
これらの植物をこの森の自生種かどうかで分けると、①人が植えた植栽 種が28種、②庭などに植えられていたものが逃げ出した逸出種が15種(う ち2種は植栽種の逸出)、③元は外国 の植物で明治以降日本に定着した帰化種が39種となっており、④この森 に自生してきた自生種は300種であった。
このように自生種が多数を占めているということは、この森の自然が大切に保全されてきたことを示している。
麻生区市民健康の森の概略図を上に示したが、それぞれの区域の特徴を見てみよう。
A区の樹林地は、多摩美ふれあいの森から続く南東斜面は落葉樹の多い明るい森となって いるが、斜面の北寄り、とくにモミの木から山頂寄りは森の遷移が進んで、極相林に近い植生となってスダジイ、シラカシ、アラカシ、ヒサカキなどの常緑樹が多くみられ、草本の生育が少なくなっている。
B区の樹林地は、落葉樹の多い里山の景観を示している。また、一部道端の下草を刈った辺りには、キツネノカミソリ、キランソウ、タイアザミやツリガネニンジン、クサボケなども生育している。
C区の樹林地は、よみうりランドの外周道路建設時に斜面が造成されたところで、疎林となっており、中木が密集している。やや平坦地付近にはヤマザクラの木が何本かあるが、特 定外来種のハリエンジュには注意していくことが必要である。斜面下のU字溝沿いには、ヌルデ、アカメガシワなどの林縁植物が観察される。また、帰化種のオオブタクサなどが見ら れる。
D区はウグイスの宿として、アズマネザサの群生を残している。現在は全体として、アズマネザサに蔓植物が繁茂しており、群落の一部を刈り取って再生力の確認作業を行っている。 ここにどのような植物が芽を出すのか楽しみである。この群生地の北側にはケヤキの高木が 茂り、B区との間の通路寄りには10数本のイロハモミジが群生していて、秋には紅葉が楽 しめる。
E区は森の広場となっているところであるが、以前はアズマネザサが群生しており、麻生 区市民健康の森推進計画の「疎林」を再生するため、約3年かけて根から伐採し、草地とし た。毎年秋の植樹祭にさまざまな苗木を植栽してきたので、樹木の99%が植栽という地区 である。地面はヒトが歩き回るため、大きな草は生えていない。地面には踏みつけに強いオオバコがたくさん見られる。また、春にはカントウタンポポが咲き競い、入口付近のカキドオシの群落やオオイヌノフグリも紫色の花を奏でる。多目的地であるため、頻繁に刈り取ら れることからイネ科の植物が多くなり“花”植物が少なくなりつつある。
F区は一部を畑にしており、周りにはキリ、カキノキが植栽されている。草地はイネ科の 雑草のほかにセリバヒエンソウなどの帰化植物も見られる。また、ミゾソバ、アオミズ、ミ ゾシダなどの湿地性植物も見られる。
図中に散策路と記載されている周囲の多くの中低木はほとんどが植栽されたものである。 草本類に関しては、E区の林縁近く、水道手洗い場近くにミズタマソウが見られたが、昨 年は見つからなかった。手入れの時に少数株の植物については十分に注意する必要がある。
このように、麻生区市民健康の森の植物は、多摩丘陵の自然をそのまま残している。しかも、このような狭い地域の中でも、落葉樹の多い場所、極相林に近いところ、踏み跡群落植 物、林縁植物群落、田んぼこそないが湿地の植物群落や畑の雑草まで多様な変化に富み、草本類も数多く確認されるなど貴重な自然を残す地域である。
麻生区市民健康の森植生調査結果(2012年10月24日)―2012 年10 月現在→リスト4頁PDF
(注)この調査は、自然観察指導員の高橋英さんと川崎自然調査団の佐藤登喜子さんの指導のもとに川崎・多摩美の山トラストの会と会員によって2012 年秋に実施された。今後春 季の調査を予定している。